次の時代を作るスタイル(2014年11月11日掲載)

アミタホールディングス株式会社の代表取締役会長兼社長である熊野英介のメッセージを、2ヶ月に1回、動画やテキストで掲載しています。



次の時代を作るスタイル

(2014年11月11日掲載)

来年は、戦後70年の節目の年です。振り返ると、時代の変遷と共に、人々が望むライフスタイルも随分と変わってきたように思います。経済発展がもたらす物質的な豊かさや娯楽の多様化、マイホームで仲間とパーティーといった「アメリカンドリーム」が日本の近代社会を代表する20世紀型のライフスタイルだとすると、21世紀に人々が求めるライフスタイルはどのようなものでしょうか?

私は、共感(「いいね!」)と共有(「シェア」)による「ソーシャルライフスタイル」だと思っています。そして、このスタイルのコミュニティが生み出す産業や経済システムは、生命や智慧が持続する社会を構築すると考えます。

今回は、改めて昭和以降の我が国を振り返りながら、新時代のライフスタイルやそこで生まれるコミュニティ、産業について考えたいと思います。

戦前戦後の社会とライフスタイル

戦前の暗くて重い時代から一転して、戦後は高度経済成長期を迎えて明るくてポップな時代になりました。東京オリンピックや大阪万博、高速道路、新幹線、家電三種の神器(洗濯機・冷蔵庫・白黒テレビ)等々、社会全体に夢があり右肩上がりの時代でした。「鬼畜米英」や「欲しがりません勝つまでは!」といった戦中のスローガンが、「いつかはマイホーム!」や「大きいことは、良いことだ!」にとって代わり、小型アメリカンドリームとも言うべき「ジャパンドリーム」というライフスタイルが、戦後わずか20年で定着しました。(写真は昭和30年頃の日本 Some rights reserved by Rob Ketcherside.)

しかし、この大量生産・大量消費=最大幸福というライフスタイルは悲惨な公害を引き起こすこととなりました。世界では、1962年レイチェル・カーソンの「沈黙の春」を皮切りに、1972年ローマクラブの「成長の限界」、1975年ダニエルベルの「脱工業社会の到来」等が、行き過ぎた工業社会に警告を発しました。ジャパンドリームによる消費経済は、1980年代(バブル期)にピークを迎え、1991年のバブル崩壊とともに泡のように萎んでいきましたが、これに先立ち、自由個人主義の結果引き起こされた公害によって、世界規模で産業界に対する大きな制約がかけられるようになっていたのです。この制約を消費行動に変えたのが、日本の省エネルギー技術です。ホンダのCVCCエンジンを筆頭に、自動車や家電業界が、価格競争ではない環境保全という価値競争で、バブル崩壊後の低迷期にも世界市場をリードしてきました。

そして21世紀に入り、パソコンやインターネットの普及により、個人が容易に情報を収集・編集・加工・発信できる時代になりました。誰もが、自らの価値観や思想、生き方を自由に発信し、多くの人から共感や賛同、あるいは反対意見や批判を受けることができるようになったのです。これにより、価値観の近い人達が独自のコミュニティを作り、その小さなコミュニティ同士が共感し連鎖・増幅することで、社会全体に大きな影響を与えるようになりました。そのひとつの例が、個人の豊かさや貨幣的裕福さよりも社会の豊かさや精神的満足感を求める「エコライフ」「ロハス」「シンプルライフ」といったライフスタイルの広がりです。""そういう生き方や生活、憧れるよね""という多くの共感(いいね)が、求めるライフスタイルに合う商品やサービスを産み、市場を作り始めたのです。

次の時代のスタイルとは

こうして時代は、全体主義から個人主義、個人主義から共感主義へとシフトしつつあります。これは、国家主体から家族主体、家族主体からコミュニティ主体へのシフトとみることもできるでしょう。新しいコミュニティ形成の鍵は、やはり共感(「いいね!」)です。今、文化的、生活的、思想的、社会的共感が多くのコミュニティを形成し、増幅しはじめていますが、今後はさらに、コミュニティ内において「リスクを共有(「シェア」)する」機能や仕組みを確立することが大変重要だと考えます。(写真はあみたたけの様子)

シェアすべきリスクとは、例えば育児や介護、教育や医療、そしてエネルギーや食糧調達のリスクなどです。これらのリスクを個々人ではなく、コミュニティ全体でシェアできれば、人々のライフスタイルは大きく変わるのではないでしょうか。

そのためには日本の産業界も、次なる時代が求める市場へとシフトする必要があります。一次産業から三次産業までが有機的に連携し、資源・エネルギーの無駄を出さない持続可能な経済システムとそれを支える社会技術を構築できれば、人々はそのシステム・技術を最大限活用し、各コミュニティにあった形に情報編集し、同時多発的に全国で新たな価値を生みだす活動が一気に促進すると思います。その結果、市場は価格競争から価値競争へと大きく変化し、日本の国際競争力も生まれることでしょう。

アメリカンドリームモデルが近代社会のピークなら、こうした共感とシェアによってなりたつ社会モデル、すなわち生命や智慧が世代を超えて交わり持続する(サンスクリット語でAMITA)ライフスタイルが、次の時代の憧れになると私は考えます。

2014年11月11日
アミタホールディングス株式会社
代表取締役会長兼社長 熊野英介

会長メッセージ


※2013年3月11日より、会長・熊野の思考と哲学を綴った『思考するカンパニー』(増補版)が、電子書籍で公開されています。ぜひ、ご覧ください。

※啐啄同時(そったくどうじ)とは

鳥の卵が孵化するときに、雛が内側から殻をつつくことを「啐(そつ)」といい、これに応じて、母鳥が外から殻をつついて助けることを「啄(たく)」という。雛と母鳥が力を合わせ、卵の殻を破り誕生となる。この共同作業を啐啄といい、転じて「機を得て両者が応じあうこと」、「逸してはならない好機」を意味するようになった。

このコラムの名称は、未来の子どもたちの尊厳を守るという意思を持って未来から現代に向けて私たちが「啐」をし、現代から未来に向けて志ある社会が「啄」をすることで、持続可能社会が実現される、ということを表現しています。