「忙しい暇人」(2016年9月9日)

「忙しい暇人」

今年7月にアメリカでスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」の配信が始まり、世界に社会現象を引き起こしています。これは、時代によるどのようなサインなのでしょうか?
携帯電話やインターネットなどの発達で、日常生活にはYahoo!やGoogleなどによる情報が溢れ、コミュニケーション手段はFacebookやLINEやTwitterといったSNSが主流となりました。結果、時間という価値がどんどん薄れているように感じます。

「イノベーション」という言葉があります。
産業革命以降、日本では、このイノベーションという言葉が、主に「技術イノベーション(技術革新)」という言葉と同義で使われてきました。しかし、イノベーションの意味はそれだけではありません。

技術革新という意味では、蒸気機関の発明により様々な動力が機械化され、工業社会を牽引しました。電気や内燃機関などの発明により、社会インフラや鉄道、自動車、飛行機といった移動手段が発達し、映画や家電、電話といった生活手段を進歩させていきました。

その結果、大量生産・大量消費社会になり、日本は、1980年代の情報化社会の進歩と同時に、技術イノベーションから市場イノベーション(市場革新)の時代に入ります。ファーストフード、インスタント食品、冷凍食品、コンビニエンスストア、家庭用ゲーム、ATMなど新機軸の革新的な商品・サービスが社会価値を創造し、新しい市場を生み出しました。この頃から豊かさの基準が「物」から「時間」、つまりどれだけ豊かな時間を過ごせるかという基準へシフトしてきたと思います。

そして、市場イノベーションの結果、豊かな時間を大量生産・大量消費する社会になりました。豊かな時間が安価で手に入りやすい時代に企業は、便利な時間を社会に提供しはじめました。技術イノベーションが、安くて便利な物が溢れる社会を作り、商品の機能が市場を形成できないコモディティ化を引き起こしたように、市場イノベーションによって、時間の価値も即物的となり、新たな市場を切り拓けなくなりつつあるのです。

私たちは、社会で、短い労働時間で生産効率を上げるということ教えられてきました。そして、自由な時間を長く持つことこそが豊かさの証明だと信じています。
しかしそれは、自由な時間を個性的に、そして意味を持つ時間に使えるだけの成熟さを持たない私たちが、ただ便利に手に入る「時間」を求め、忙しい忙しいと言いながら便利な時間を探す言い訳にしているのだけなのかもしれません。そしてそれは、寂しさを紛らわすだけの意味しか持っていないのかもしれません。

 成熟した社会は、便利な「時間」で、暇な時間を埋めています。
そして、少しでも意味があると思えば、どんなに忙しくても時間を作って列に並んだりしています。そんな人達を「忙しい暇人」と呼んでも良いのかも知れません。

人間は、技術イノベーションと市場イノベーションで、大量生産・大量情報・大量消費の社会を生み出し、社会に孤独を増加させ、地球の自然を壊してしまいました。

 時代は、暇を埋めて寂しさを紛らわす「便利な時間」ではなく「本当の豊かな時間」を求めています。今こそ社会の誤作動を正し、市場イノベーションから社会イノベーション(社会革新)の時代に進歩する必要があります。

 アミタは、これをイノベーション3.0として、多くの企業・自治体の方々と共に事業を通じて、社会イノベーションを目指していくことをお約束したいと思います。


2016年9月9日
アミタホールディングス株式会社
代表取締役会長兼社長 熊野英介

会長メッセージ


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※2013年3月11日より、会長・熊野の思考と哲学を綴った『思考するカンパニー』(増補版)が、電子書籍で公開されています。ぜひ、ご覧ください。

※啐啄同時(そったくどうじ)とは

 鳥の卵が孵化するときに、雛が内側から殻をつつくことを「啐(そつ)」といい、これに応じて、母鳥が外から殻をつついて助けることを「啄(たく)」という。 雛と母鳥が力を合わせ、卵の殻を破り誕生となる。この共同作業を啐啄といい、転じて「機を得て両者が応じあうこと」、「逸してはならない好機」を意味する ようになった。

 このコラムの名称は、未来の子どもたちの尊厳を守るという意思を持って未来から現代に向けて私たちが「啐」をし、現代から未来に向けて志ある社会が「啄」をすることで、持続可能社会が実現される、ということを表現しています。