「共感の時代-信頼が資本になる社会-」(2018年1月1日)

2018年度啐啄同時は「共感の時代-信頼が資本になる社会-」をテーマに、新しい時代の価値観や企業に必要なイノベーション力について連載します。



「共感の時代-信頼が資本になる社会-」

明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、2017年は、北朝鮮問題や加計学園問題といった重要ニュースと、芸能人の不倫問題や相撲界のハラスメント等の話題が同列に扱われるなど、日常化した「分かりやすい不信」が大きくメディアに取り上げられました。
一方で、不透明で分かりにくい不信(地球温暖化問題、放射能汚染、心の病など)は解決の道筋が立たないまま、ただただ不安だけが増幅していった年でした。これは日本に限ったことではなく、今、世界中に不透明な不安が蔓延し、人々は安定を求めてどんどん保守的になっているように感じます。

しかしまた、昨年は、未来の予兆を感じさせるような年でもありました。
「『共感』出来るかどうかが判断基準」「これからは『信頼』が大事だと思う」といった言葉が、日常によく聞こえ始めたのです。特に若者からこうした声が出てきていることを私はとても心強く感じています。また、これに関連する「コミュニティ」や「自然回帰」という価値観も増えてきているように思います。

少し気になるのは「昔はよかった」「あのころのように」という、過去のありようや価値観に傾倒する人々も同じように増えていることです。原理主義的宗教の台頭や世界的に再び注目をされ始めたヒッピー文化もその一例で、人類の遠い記憶を辿り安定する真理を探究しているように思われます。不確実性が増し、政治も経済も不安を煽るばかりの現代社会において、人々は保守化する一方で、かつての安定・成長していた時代に思いを馳せ、当時の価値観に未来の答えを求めているのかも知れません。

では、本当に心の安寧が得られる答えが過去にあるのでしょうか?
「温故知新」という言葉があります。辞書によると「昔の事を調べて、そこから新しい知識や見解を得ること。故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る。」という意味を指しますが、論語を研究されている能楽師の安田登さんは「過去の知識を熟成させるぬか床やグツグツ煮る鍋の中から、まったく新しい価値として、視点や方法が突如として現れる、それが『温故知新』であり、そのような精神作用が『知』なのです。」と説明されています。

「衣食住足りて不幸になる」という人類史上初めての問題を抱える現代。もはや過去の時代に答えを見出す事は出来ないでしょう。
しかし我々は、人類の営みのデータベースである過去の歴史を鍋の中でグツグツ煮立て、そこから生まれたエキスを新しい価値づくりの基礎に据え、次なる時代に必要となる「幸福が増幅するメカニズム」を構築しなければなりません。

産業革命から続く約250年間の工業文明の時代は、人類に初めて「社会の安定」を与えてくれた時代でした。「安定」こそが幸福だと信じていたのです。しかし今、その時代は終わりを迎えようとしています。
資源枯渇や生物多様性の制約といった地球環境問題や精神的飢餓貧困の蔓延...。人類は歴史の中で、人との関わりや道具の発明、エネルギーの開発等を通じ、自身の能力や関係性を徐々に拡張し、多くの困難を乗り越えてきましたが、地球の劣化速度は想像以上です。流れに任せたままでは、もう時間が足りません。我々は勇気を持って「幸福が増幅するメカニズム」の仮説を立てて、その仮説検証の方法論に人類の拡張性を用い、一刻も早くあるべき未来像を具現化しなければなりません。

その昔、人類は、天変地異や病気や飢餓の恐怖の中で生存確率を上げる為、個人でなく仲間(群れ)をつくり、「安心」を求めました。そして、その安心を担保するために「社会性」を本能に組み込んでいきました。今、人々は「安定」からふたたび「安心」を求めているように思います。人間性回帰(共感・互助・参画という社会性の三要素)が行動動機となる、「安心」社会が必要なのです。

近代社会の価値観が「個人の自由と物質的裕福さ」で、それを形作る資本が「貨幣」であるとするなら、新しい社会の価値観は「共感に基づく関係性」であり、それを形作る資本は「信頼」であると、私は勇気を持って仮説を立てます。信頼とは「守り守られる事に頼る」ことを指します。アミタグループは、信頼を資本と捉え、その資本力をもって精神的飢餓貧困からの解放を実現する「安心」社会を創りたいと思っています。

そこで、2018年の啐啄同時は「共感の時代-信頼が資本になる社会-」をテーマに、隔月で連載していきます。昨年に引き続き、ぜひ忌憚ないご感想やご意見をお寄せいただきたいと思います。

昨年末に、閉塞する状況の弱き人々の想いを代弁した風刺漫才が評判になりました。我々事業家がやらなければならないことは、閉塞する社会構造に対して、弱き者たちが結集する仕組みをつくり、そして具体的な状況を作り出すことだと自負しております。アミタグループは、これからも新たな時代づくりに一切の妥協なく挑戦し続けてまいります。その原動力こそ、まさに皆様からの「共感」と「信頼」です。どうぞ引き続きのご支援のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。

また、2018年2月21日(水)、東京で経営者や事業家にとって「持続可能な未来」の創造に必要な事業構想等について、各分野の専門家が集まりディスカッションするシンポジウムが開かれます。ご興味のある方は、ぜひ東京でお会いしましょう。

2月21日(水)開催 【未来経営シンポジウム2018~社会ニーズの市場化に向けて~】についてはこちらから

2018年1月1日
アミタホールディングス株式会社
代表取締役会長兼社長 熊野英介




「啐啄同時」に対するご意見・ご感想をお待ちしております。
下記フォームにて、皆様からのメッセージをお寄せください。
https://business.form-mailer.jp/fms/dddf219557820

会長メッセージ


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※2013年3月11日より、会長・熊野の思考と哲学を綴った『思考するカンパニー』(増補版)が、電子書籍で公開されています。ぜひ、ご覧ください。

※啐啄同時(そったくどうじ)とは

 鳥の卵が孵化するときに、雛が内側から殻をつつくことを「啐(そつ)」といい、これに応じて、母鳥が外から殻をつついて助けることを「啄(たく)」という。 雛と母鳥が力を合わせ、卵の殻を破り誕生となる。この共同作業を啐啄といい、転じて「機を得て両者が応じあうこと」、「逸してはならない好機」を意味する ようになった。

 このコラムの名称は、未来の子どもたちの尊厳を守るという意思を持って未来から現代に向けて私たちが「啐」をし、現代から未来に向けて志ある社会が「啄」をすることで、持続可能社会が実現される、ということを表現しています。