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未来デザイン談義 -ドミニク・チェン博士×熊野 英介 編- vol.1(2020年5月11日)

「エコシステム」をテーマにした2020年の啐啄同時、56月は、早稲田大学文化構想学部の准教授であるドミニク・チェン博士との対談形式(全4回)でお伝えします。情報学やAI(人工知能)に精通し、人間社会とテクノロジーのよりよい関係性の在り方を研究するドミニク氏。初回(vol.1)はアフターコロナの社会構築に向けて、私たちが今迎えている危機の本質と、新たな時代の価値観について語り合いました(対談日:2020326日)。


はじめに

熊野:今、新型コロナウイルスによって、全人類が未曾有の危機に直面し、強い不安感が世界を覆っています。2008年のリーマンショックを超える金融危機が想定され、この影響は長期に及ぶと考えざるを得ません。

私は事業家として、こうした社会危機の時こそ、既存の常識やルールを取っ払った、新たな時代の突破口を開くことができる、いや、開かなくてはならないのだと、考えています。今日はそのヒントになる議論ができればいいなと思います。


"不安"が加速させる情報全体主義への道

熊野:最初にひとつ、私の感じている課題について話題提供を。

人間は、不安に囚われたとき「安心」よりも「安定」を求めてしまいがちです。コロナショックによって、収入や食糧、医療の安定が担保される強い統治を求めるあまり、人々が全体主義に傾倒する恐れもあります。

すでに今でも、我々が自分の自由意志で選択していると認識しているものの大半は、実は「選択させられた自由」であり、日々の消費行動はもとより、社会全体の価値基準までもが、既得権益者にとって都合のいい情報に加工され「情報を選ばせられている」ことを理解しておくべきだと思います。

「情報全体主義」と呼べばいいのか、こうした中で、今後はさらに、ビックデータを活用した超管理社会に突入していく可能性が高いです。国家による監視体制が行き届いた情報管理社会で、選ばされた自由の中で個人の権利を主張することが、不安からの防衛策となっていく...。

私はそんな未来を危惧するのですが、どうでしょうか。


ドミニク氏:そうですね。人間の感情や情動というのは伝染するものなんです。例えば、FacebookTwitterなどのSNSを用いた情動伝染の実験では、ポジティブな内容の発信を見続けた人は、自分もポジティブなことを書く。そして逆もまた然り、という結果がでています。

S__21463115.jpgのサムネイル画像つまり、報道や教育でどういった情報発信をするかが非常に重要であることを示しています。これは統計学者のハンス・ロスリングが生前に口を酸っぱくして指摘していたことなのですが、今のメディアは、問題や課題にクローズアップしすぎる面があります。昔あるテレビ局のニュース番組に出演していた時の話ですが、新しいテクノロジーを紹介しようとするといつも却下されるんです。「新しいものは実用化されるかわからないから、課題や問題になっているものにしてほしい」と。

人間は不安な状況下の方が意識的に情報収集を行う特性を持っています。不安な情報の方が、人を惹きつけるんですね。

ときに国や指導者は、メディアを使って、人々の不安を過剰に発火させ、助けてやるから俺についてこい、という発信をする。
特に危機的な状況下では、人は中世社会のように強くて分かりやすい政治権力に傾倒しがちです。

「エコシステム」の本質と「善意のベル曲線」

熊野:よくわかります。しかし、そんな管理された自由を是とする情報操作された社会に、果たして人間の尊厳はあるのでしょうか。

私は、今回の対談の大テーマである「エコシステム」、つまり生態系のようなメカニズムで機能する世界こそ、持続可能かつ人間が尊厳を持って生きることのできる未来だ、と考えています。

「エコシステム」の本質は多変量の複雑系です。生態系は、常に変化し続け、すべてが相互に依存し、関係しあって成り立っていますよね。一つ一つは弱い生命体や、土や水といった小さな粒の集合体が、関係性の中でつながり、重なり、影響しあうことで、大きな循環と調和を保っている。

ドミニク氏:ええ、他と関係していないものは何一つないという見方ですね。

熊野:アミタは、このエコシステムを模したビジネスモデルの構築を目指しています。前回の啐啄同時で、人間には「強い欲求」と「弱い欲求」がある、という話をしました。「人の役に立ちたい、他者とつながりたい」という、社会的欲求は、弱く曖昧だけれども万人に共通する普遍的なものだと思うんです。この弱い欲求をたくさん集めて「見える化」すれば、安定した原動力として成立するのではないか、と考えたんです。1本の風車では安定的な発電は見込めませんが、100本あれば、どこかで風は吹いているので、安定してくるのと同じ発想です。私はこれを「善意のベル曲線」と呼んでいるのですが、この仮説をもとにしたビジネス設計ができないかと。

「個人の幸福」から「私たちのウェルビーイング」へ

ドミニク氏:おっしゃった「見える化」はとても大事だと思います。インターネットやICT/IoT技術等の発達によって、今、「見える化」できる対象がすごく広がっている。人間の中に渦巻いている情動のような見えざるもの、表現しえないもの、"もやもや"とした感情の源泉。こうしたものをどう可視化するのか。そして、可視化することで人間はまた変化していく。可視化によってどう変化したいのか、どんな社会変革につなげていくのか、を同時に問うことが重要なんです。

私はテクノロジーと「ウェルビーイング」の関係を研究しています。「ウェルビーイング」とは、WHO(世界保健機関)によっても定義されている心理学の概念で、直訳すると"よきあり方"、"良好な状態"という意味合いで、心身共に充実している状態を指します。ブータンがGNH(国民総幸福量)を国家指標として掲げたことで有名になったように、最近は国家施策の中でも市民のウェルビーイングをどう対象化するかが重要視されるようになってきています。

次回へ続く

次回は、テクノロジーとしての言語が人や社会に与えている影響を紐解きつつ、これからの未来デザインについて語り合います(vol.2525日公開予定)。

対談者

ドミニク・チェン氏

博士(学際情報学)。株式会社ディヴィデュアル共同創業者、早稲田大学文化構想学部准教授、NPO法人コモンスフィア、NPO法人 soar、公益財団法人Well-being for Planet Earth理事。
デジタル・ウェルビーイングの観点から、人間社会とテクノロジーのよりよい関係性の在り方を学際的に研究している。近著に『未来をつくる言葉わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)。21_21 DESIGN SIGHTの次期企画展『トランスレーションズ展「わかりあえなさ」をわかりあおう』の展示ディレクターを務める。

参考図書

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