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「社会の持続性を高める"新しい資本主義"-有形から無形へ、貨幣から信頼へ」前編

18世紀後半にイギリスで起こった産業革命以降、工業化と資本主義の進展は世界規模で劇的な富の増大を実現しました。しかし、人々が更なる経済発展と個人の幸福を追い求めた結果、現在では気候変動や格差、孤独問題をはじめ、様々な社会課題が顕在化しています。先の見えない不安と孤独が蔓延する今、真に豊かな持続可能な社会の実現に向けた道筋が問われています。(対談日:2021年6月14日)

資本主義は誤作動を起こしている?

熊野:今回は社会の持続性を高める"新しい資本主義"をテーマに、京都大学大学院・経済学研究科/地球環境学堂教授の諸富 徹氏にお話をお伺いします。これまでの資本主義社会の発展と課題を振り返りつつ、これからの望ましい資本主義経済のあり方を探ります。

「資本主義はその成功ゆえに失敗する」-今まさにヨーゼフ・シュンペーターのこの言葉が、現実になりつつあると思います。資本主義はその競争原理から、既得権の基盤を確立してしまいました。その結果、現在多くの企業や自治体が既得権益者からの抵抗によりイノベーションを起こしにくい状況に直面しています。

社会全体の社会主義化が進行する今、資本主義は次の局面を考えざるを得ないところに来ているのではないでしょうか。諸富先生は現在の資本主義に誤作動が生じているとお考えでしょうか?

諸富氏:はい。私は近年の社会の状況から、資本主義に大きく分けて二つの誤作動が発生していると考えています。一つ目は、国家間や労働者間の経済格差・不平等が深刻化しているという点で、二つ目は経済成長と引き換えに温室効果ガスが大量排出されているという点です。

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一つ目の誤作動については、OECD(経済協力開発機構)が様々な指標を用いて、国家間の格差拡大傾向を明らかにしています。その根源的な要因には、経済のグローバル化や新自由主義的な規制緩和政策、所得再分配の後退などの要因が指摘されてきました。新自由主義的というのは、国家による福祉・公共サービスの縮小と大幅な規制緩和といった市場原理主義の重視を特徴とする経済思想を指します。

さらに近年、国内における労働者間の格差も拡大傾向にあり、今後一層深刻化することが予想されています。その背景には急速に進行するIT化やAIなどの技術革新の発展があります。

ルーティン化/マニュアル化された低技能職の業務が次々とAIやコンピュータによって代替されていく反面、創造性・柔軟性・コミュニケーション性を要する高技能職の業務への労働需要は増加傾向にあります。自動化を含めた先進技術の進展は資本主義経済のあり方に大きな変化をもたらすと同時に、労働需要の質と量にも影響を与えているのです。

二つ目の誤作動については、環境と経済がトレードオフの関係にあるという考え方が、温室効果ガスの大量排出の背景にあると思います。18世紀後半にイギリスで起こった産業革命以来、資本主義経済の急速な発展は温室効果ガスの大量排出を伴いながら推進されました。そして、これまで長きにわたり、その排出削減は産業の国際競争力を弱め、各国経済の成長を除外すると批判されてきました。このような「成長か経済か」という二項対立的な発想のもと、経済成長政策が優先的に進められ、その結果世界の平均気温は上昇し続けているのです。近年では世界中で異常高温、熱波、豪雨、台風などによる被害が多発、激化していますね。

熊野:おっしゃる通り、貧困・格差や温室効果ガスの大量排出に伴う気候変動の発生は極めて深刻な状況にあると思います。これまで多くの企業が、自社の競争優位性確保のために価格・機能競争へ突き進んできました。しかし、それらは多くの自然や人間を経費(コスト)とする、経済優先の大量生産・大量消費の構造によって成り立つものでした。利益の最大化を目指す近代工業化の流れの中で、効率化や画一化が図られたことで、原料も人も非効率なものは二級品・三級品として排除されたのです。その結果、現在の行き過ぎた「工業の資本主義」が発生してしまいました。

日本は今、人口減少と高齢化の課題に直面しています。それはつまり、市場が縮小傾向にあることを意味しており、今後これまでのような量的拡大が見込めないことは明らかです。「良い商品を作れば売れる」というプロダクトアウトのマーケティングはもとより、顕在化した顧客ニーズを満たすマーケットインの時代は限界を迎えていると言えるでしょう。

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さらに私は、経済格差と同様、深刻な問題のひとつである心の飢餓・貧困についても大きな危機感を抱いています。というのも、貧困というのは経済的な側面に限った問題ではなく、20世紀後半以降、一部の先進国では「衣食住足りても不幸になる」という人類史上初めての精神的飢餓貧困が顕在化しています。

日本も例外ではありません。日本は経済的にも物質的にも非常に恵まれた国ですが、毎年2万人以上が自死を選び、またいじめや引きこもり、孤独死といった社会課題が深刻化しています。2020年の自殺者数については新型コロナウイルス感染症の感染拡大を背景に、前年比約900人増という悲しい数字が報告されています。ここ数年は、特に女性や若年層の自殺が急増しているようです。

誤作動が起きている要因

熊野:誤作動が起きている要因とは一体何なのでしょうか?話題提供として、初めに私から資本主義の誕生についてお話したいと思います。

資本主義の誕生と発展に大きな影響を与えた一人に、イギリスの経済学者、思想家であるアダム・スミスがいます。16世紀末から18世紀にかけて、当時ヨーロッパの絶対王政国家では、国富の源泉を貨幣(=金銀)の量と捉える「重商主義」の理論と経済政策が発達していましたが、これに対してスミスは『国富論』をもって従来の重商主義を批判し、自由放任主義的な経済政策の重要性を強調しました。

それまでは富を増やすため、国家による保護関税や産業保護等の経済政策がとられていましたが、自由放任主義的な経済政策の高まりに伴い、国内の能力が高く優秀な労働者たちによる分業と協業体制の構築が推進され、労働の生産性向上を通じた富の増大の実現が目指されるようになりました。その後『国富論』は資本主義発展の理論的支柱となり、今では近現代における経済学の出発点と考えられています。

諸富氏:そしてこれほどまでに、資本主義が世界規模で発展したのには、産業革命の存在が非常に大きく関係しているでしょう。

  • 第1次産業革命(1750~1830年):
    蒸気機関の出現とそれに伴う石炭の利用が、生産技術を革新し、交通(輸送と移動手段)にも革命をもたらした。
  • 第2次産業革命(1870~1900年):
    主要エネルギーが石油と電力へ移行。鉄鋼・機械・造船などの重工業や化学工業を中心に技術革新が起こり、大量生産の仕組みが飛躍的に発展。現代に通じる、資本主義経済の仕組みが大きく発展した時期と言える。
  • 第3次産業革命(1960年~):
    コンピュータを中心にソフトウェア、ウェブ、携帯電話等が登場し、情報通信産業が急速に拡大。工業の自動化が実現された。

熊野:資本主義の誕生と発展は中世の封建的な身分制度を崩壊させたものの、現在では、経済格差に基づく新たな身分制度や差別を生み出しています。資本主義の発展は人々の生活水準を大幅に向上させた反面、国家間の経済格差を拡大させ「国富の差=労働者の能力の差」という新たな身分制度・差別の構図が生まれているのです。

また、私は誤作動が発生した原因の一つに、「個人の自由と物質的裕福さ」を重視する近代社会の価値観と、それを形作る資本としての「貨幣」の存在があると思います。人々はお金を持つことで社会的安全や自由が手に入ると考え、それらと引き換えに社会に依存するようになったのではないでしょうか。「近代社会のシステムにコミットすれば、経済力に比例した自由と安心が手に入る。」このような考えのもと、お金を持つ者は安心・安全と自由を手に、更なる儲けをあげてそれらの富を蓄えてきました。

分業と協業が重視され、均質に管理された人間が労働者となった人工的な社会において、我々は徐々に人間性を希薄化する誤作動に陥ってしまったのではないでしょうか。私は、資本の本来あるべき姿は「信頼」だと考えています。資本とは「貨幣」のみを意味する言葉ではなく、人間が心に秘めている希望をもとに価値を創出する力のことなのだと思います。

例えば他者との友好的かつ信頼できる関係性を築くことのできる人間のもとには、新たな価値創出に必要な「信頼できる」人財や関係性が集まり、さらにそういった人々に付随するモノ・カネ・情報が自ずと集まるようになっています。しかしながら、近代の資本主義はそうはなっていません。その理由は金銭的価値に主眼が置かれた資本主義に陥っているためです。結果的に、既にお話した数多くの社会問題が世界中で発生しています。

諸富氏:そうですね。カール・マルクスが『資本論』で明らかにしたように、資本主義は本来的に、格差と貧困をつくりだしながら自己増殖を遂げていくシステムだと言えます。このシステムは1970年代以降、先進諸国の成長率の低下を背景に、それまで資本主義をコントロールし格差と貧困を防ぐ役割を果たしてきた様々な仕組みが取り外されたことで悪化しました。

先ほど熊野さんがお話されたような、豊かな貨幣資本のもとにさらなる貨幣資本が集まる仕組みというのは、金銭的価値を重視する現在の資本主義のあり方を明瞭に示していると思います。このような状況を良しとする人はいないと思いますが、残念ながら依然として、格差は拡大し続けています。これからの時代、格差や包摂について十分に考える必要があると思います。

資本主義の構造変化「非物質主義的転回」

諸富氏:資本主義の誤作動を正作動へ正し、真に持続可能な資本主義の構築を目指すにあたり、私は近年、資本主義社会の構造に見られる変化「資本主義の非物質主義的転回」に注目しています。それが持続可能で公正な資本主義経済への転換に向けた望ましい変化であるかどうかは、現時点でなんとも判断できませんが、社会にどう作用するかは私たちの今後の取り組みにかかっていると考えています。

「資本主義の非物質主義的転回」とは、現代資本主義が生産と消費の両面で「物的なもの」から「非物質的なもの」へと重点を移行させることを意味しています。生産の面では、中核的な要素が「有形資産(物的資本)」から「無形資産」の蓄積に移行します。有形資産には工場や機械設備などがあり、無形資産には、デザインやブランドといった知的財産、人的資産、ソフトウェアなどがあります。今後は無形資産に該当するものが、企業がビジネスを行う際の駆動力となるでしょう。

210614_dd.jpgここで一点、気を付けておくべきことがあります。それは「非物質化」と「脱物質化」を区別し認識しておくことです。「脱物質化」とは非物質的なものが物的なものを置き換えていき、やがて物的なものが不要になるか、或いは完全に価値を失う世界に移行することを意味しています。一方で、「非物質化」とは物質的なものに非物質的要素が付加されたり、製造業がサービス業と融合したりすることで物的なものが非物質的なものによって新たな価値を与えられることを意味します。

つまり、物的なもの自体に価値があるというよりも非物質的な価値を帯びているからこそ、そのモノの価値を認められるという風に、価値の源泉が物的なものから非物質的な要素へと移行していく変化と言えます。

熊野:私は価値創出の担い手が非物質化するのと同様に、人々の欲求も非物質化が進んでいるように思います。その点についてはいかがお考えでしょうか。

諸富氏:生産面の非物質化よりもむしろ「消費の非物質化」こそが、需要構造や企業が提供する製品・サービスのあり方に大きな変化をもたらしていると思います。人々の欲求がモノ消費からコト消費へと移行しつつあり、近年コトに対する支出の増加傾向が顕著に表れています。今後、生産者は人々の非物質主義的な価値欲求を満たすことの出来る製品・サービスを生み出さなければ利潤を獲得できず、市場競争で生き残れなくなっていきます。だからこそ、生産のあり方は消費のあり方の変化にあわせて変革していかなければならないのです。

熊野:それでは現在の資本主義の構造を変革し、誤作動を正作動に直すための起爆剤とは何か?私は「豊かな関係性」こそがその起爆剤、エネルギーなのだと思います。もっと言うと、濃縮された関係性が国富と捉えられるような「関係性の資本主義」こそが我々に残された、唯一の持続可能な資本主義のあり方だと考えています。後半は社会の持続性を高める資本主義のあり方や企業、自治体、政府に望まれる取り組みについて、詳しく掘り下げて行きたいと思います。

後編へ続く

 

対談者

諸富 徹 氏(京都大学大学院 経済学研究科/地球環境学堂 教授)

1968年生まれ、同志社大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了後、横浜国立大学助教授などを経て、2010年3月から京都大学大学院経済学研究科教授。この間に、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、ミシガン大学客員研究員、放送大学客員教授を歴任。2015年4月より、ミシガン大学グロティウス客員研究員、および安倍フェロー(以上、2016年3月まで)を務めた。2017年4月より、京都大学大学院地球環境学堂教授を併任。
『私たちはなぜ税金をおさめるのか‐租税の経済思想史』(新潮選書、2013年)、『人口減少時代の都市』(中公新書、2018年)、『資本主義の新しい形』(岩波書店、2020年)、『グローバル・タックス -国境を超える課税権力』(岩波新書、2020年)など著書多数。

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