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「社会の持続性を高める"新しい資本主義"-有形から無形へ、貨幣から信頼へ」後編

18世紀後半にイギリスで起こった産業革命以降、工業化と資本主義の進展は世界規模で劇的な富の増大を実現しました。しかし、人々が更なる経済発展と個人の幸福を追い求めた結果、現在では気候変動や格差、孤独問題をはじめ、様々な社会課題が顕在化しています。先の見えない不安と孤独が蔓延する今、真に豊かな持続可能な社会の実現に向けた道筋が問われています。(対談日:2021年6月14日)
<前編はこちら

社会の持続性を高める「関係性の資本主義」

熊野:前半の最後に「豊かな関係性」こそが資本主義の誤作動を正作動に正すためのエネルギーであり、濃縮された関係性が国富と捉えられるような資本主義こそが我々に残された、唯一の持続可能な経済構造だと申し上げました。
この主張の意図は、人間の基礎的な生存条件である関係性の豊かさが向上することで、最小の負荷と消費で最大の安心を手に入れることが出来るようになるということです。関係性の資本主義におけるこれからの市場は、従来のような経済的、利己的動機性の交換動機ではなく、本来人々が心に秘めている優しさといった無形性の価値などを含めた、社会的動機性を行動動機や駆動力とするものだと想定しています。

諸富氏:人々の心のなかにある潜在的な社会的動機性を引き出す方法には、どのようなものがあるのでしょうか。

熊野:まず、個人の中には多様な個性が存在しており、利他的な行動をしたい自分がいれば利己的な自分もいるということを理解しておく必要があると思います。さらには社会的な行動をとりたいと思う時があれば経済的な行動をとりたいと思う時もあります。そのような個人の行動動機は、しばしば自身を取り巻く環境や関係性のなかで形成されているのです。

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人々の社会的動機性は実に曖昧でうたかた、不確実なものですが、弱みは繋がれば強みになります。個の弱さの哲学を社会構造に組み込み、社会的動機性の市場を作ることで、商品の購買を通じたソーシャルキャピタルの底上げを実現できるのではないかと考えています。企業は今後、モノを売るモデルからサービスを売るサービサイジングモデルへ、そして人々の社会的動機性を駆動力とする新たな産業創出へと移行することが求められる時代を迎えるでしょう。私はこの新たな産業のあり方を心産業(マインダストリー)と呼んでいます。

現在の資本主義経済は「文明の恩恵を受けつつ無自覚に誤作動の発生に加担している人々」と、「誤作動の発生にほとんど加担していないにも関わらず、そのしわ寄せを受けている人々」を生み出していると感じます。例えばSDGsで取り上げられている課題の大半は先進国が引き起こしたものなのに、その結果引き起こされた悪しき影響やその対応は途上国の人間にも否応なしに降りかかっています。このような不公平・不平等を埋めていく際に、私は企業家が大きな役割を果たすと考えています。というのは、もしも国の力、つまり税金でこの社会変革に取り組んだ場合、平等や社会的安全と引き換えに人々が国家へ依存してしまう可能性が非常に高く、そのような状況は後に依存してしまう社会主義の発生へと繋がりかねません。

今の時代に求められるのは、民間主導の社会イノベーション、つまりビジネスを通じた社会構造の変革ではないでしょうか。そしてその変化の駆動力となるべきは「暮らし」である、と私は考えています。身近な日常生活の中にこそ新たな価値創造や豊かな暮らしのヒントが隠されており、だからこそ資本の先行投資先として生産現場における生産性だけでなく、人々の暮らしの場がその重要性を増しているのではないでしょうか。経済的先行投資の時代から、社会的先行投資の時代への移行とも言えます。

企業は社会的先行投資を通じて、暮らしの中から信頼できる人・モノ・カネ・情報といった経営資源を集め、それらをもって新たな価値創出のための資本投下を行うことが出来ます。このような、資本を投下すればするほど社会が豊かになる、もっといえば、暮らしの豊かなところにさらなる資本が集まる資本主義が必要だと考えています。ここでいう「暮らしの豊かさ」とは、もちろん"物質的・経済的豊かさ"ではなく"関係性の豊かさ"です。

そのために重要なのが、相手の顔が見えてオンデマンドのニーズが分かるような関係性と、意味のある時間やモノに経済が動くような仕組みです。個人の中にある対立する複数の価値観の中から、利他性の心の密度が高まるような環境を設計・構築することが必要だと思うのです。そうすることで「経済的豊かさの増大が幸福度を上げる」という考えに基づく意志決定から、「豊かな関係性の増大が幸福度を上げる」という意思決定に、人々の価値判断の軸を変化させることが可能なのではないでしょうか。そして、共同体・コミュニティこそが、社会的動機性に基づく「関係性の資本主義」を構築する舞台になると考えています。ローカルに規模を狭めるということは縮小ではなく、むしろ濃縮するダイナミックな動きです。

諸富氏:ローカルの重要性が今後一層高まるという点について、私も同感です。私は人口減少時代に向けて、自治体の「成熟型のまちづくり」と都市の「縮退」を推奨しています。「縮退」という言葉には、縮小していく経済・人口に対して市民が戦略的かつ賢く撤退をはかる、主体的、積極的かつ動態的な意味が込められています。縮退の方法は国や地域により様々ですが、日本の地域の場合は多くが、時間を掛けて複数の都市拠点に経済活動と居住を誘導していくことが望ましいと思います。そのためには、都市の前線を単に縮小・撤退するだけでなく、拠点への新しい投資が必要になります。人口減少を新しい機会ととらえ、生活の質向上をもたらす都市づくりの契機として積極的に打って出ることが重要と言えるでしょう。

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一方で、これまで私が研究してきた中では、現在の地域や自治体の多くは、自立的に経営を行おうとするマインドがあまり豊かではなく、外部への依存状況にあるように思います。特に農山村は補助金への依存度が高い傾向にあります。

だからこそ、地域における自立的な意思決定と、それを可能にするような仕組みをまずは整えることが大事だと思います。地域の産業基盤を再構築し、そこで暮らす人々がある程度自立して自分たちで食べていける基盤を作りたいというのが私の考えです。そのうえで、外部に頼らずとも自分たちの力で経営をマネジメントするのだ、というマインドを人々の心の中に醸成する必要があると思います。


ドイツやオーストラリアでは、農山村エリアの少人数のコミュニティの中で、クリエイティブな仕事が多方面で行われることによって、地元産業が成り立っている事例があると言います。外からの若者の流入も多く、自立的な経済圏が地域内に出来ているようです。日本の事例を挙げるとすると、岡山県の西粟倉村が私の理想とする地域の一つです。

熊野:西粟倉ですか!実は2004年から2007年頃までの約3年間、私は総務省の事業の一環で西粟倉の地域再生コンサルティングのマネージャーとして地域の人々と関わっていました。当時の西粟倉は「平成の大合併」の最中にあり、近隣地域との合併を拒んだことで自立の道を歩み始めたところでした。私が一番に行ったのは、村長に将来の担い手を10人集めるようお願いし、月に一度「西粟倉にしかない価値」について彼らとディスカッションを繰り返すことでした。しかしながら、なかなか地元にある価値、特に心が価値になるという点については気付きにくいものです。山しかないしなぁ、風景しかないしなぁというような会話が何度も行われました。辛抱強く繰り返して1年くらいが経過した時に、彼らから「心かなぁ」という言葉がポツリと出てきたのです。それを聞いた瞬間に「そうだよ、それだよ」となりました。

諸富氏:西粟倉村の地域づくりに熊野さんが関わられていたとは、初めて知りました。西粟倉村の官民が一体となって取り組むイメージは、常に理想形の一つとして頭にありました。現地の株式会社西粟倉・森の学校(※元アミタ社員が代表を務める)も重要な存在だと思います。そこは起業家やベンチャー企業を地域に集めて人を育てる、地域起業家のプラットフォームづくりを手掛けています。これから開業する人たちはそこで経営などについて学び、2年目までは補助金をもらいながらビジネスを開始し、3年目からは完全に独立して経営・運営を行うのです。最近では、意欲的な参加者がさらに魅力的な人を呼ぶといった好循環がうまれているという話を聞きました。

熊野:わたしは今後のビジネス領域は、①スーパーグローバル企業、②グローカル企業、③ローカルコミュニティ企業の大きく分けて三層に分かれていくと思います。スーパーグローバル企業とは効率化・画一化を重視し生産・仕入れをグローバルに行う企業のことで、グローカル企業とは生産・仕入れはローカルで行い、ブランドとして提供するサービスや価値、品質はグローバルに行う企業のことです。ローカルコミュニティ企業とは、生産・仕入れをともにローカルなエリアで行う企業を意味します。

調達リスクがますます高まることが予測されるこれからの時代、私はグローカル企業が資本主義市場の中核を占めるようになると思います。原料や人材をロ-カルで調達し地産地消することで、輸送費の削減や地元産業への貢献などが期待されます。さらに、従業員に実施する教育プログラムや料理・安全などの品質基準については、グローバルなレベルで保障されることから、各地の消費者は安心してグローカル企業が提供する価値を受け取ることが出来ます。

これからの企業は、それぞれの地域に異なる資源があることを認識し、顔の見えないスケールメリットを優先する短期的な市場から、相手や関係性の見えるスコープメリットを優先する中長期的で持続的な市場へと移行することが求められるでしょう。そして、ローカルのモノを上手に使えば、それぞれの地域で生み出される個々の商品に個性が出てくるはずです。それぞれの地域の良さを活かしたバラエティ豊かな価値競争の始まりです。そして、価値創出の「プロセス」というもう一つの無形性の価値は、ネットワーク化することが可能です。濃縮した無形性の価値のネットワーク化は、現在よりもさらに安定し持続する市場を生み出す力を持っていると私は考えています。

アフターコロナに必要な経営

諸富氏:無形資産を創出するために企業や自治体、政府に求められる行動とは一体何なのでしょうか。私は企業内、社会全体において、人々の能力を高めることに投資をしていく「人的資本投資」が一つの答えだと考えています。なぜなら、人間の頭脳のみが無形性の価値を生み出すことが出来るからです。

企業を対象に考えた場合、以前であれば工場の設備投資などが典型的な有形資産の増やし方でした。しかし今後は、人間及び人間の組織に関わる無形資産への投資がその重要性を高め、従業員の能力育成や会社内部の組織構築、共同生産を高める場の設計などが投資対象となっていくでしょう。労働者自身が力を持つということは極めて重要ですが、価値創出の場に必要な創造性というのは、特定の個人からのみ生み出されるのではなく、力をもった労働者たちのネットワークや相互作用の中で生み出されます。だからこそ、共同生産の場も重要になるのです。

人的資本投資を推進するにあたり、政府が果たすべき役割は非常に大きなものだと考えています。私はこれからの国家のあり方として「社会的投資国家」という概念を提唱しています。社会的投資国家とは十分な財政支出を通じて、戦略的に人的資本投資を実行する国家のことを指します。ベーシックインカムという、一定の金額を一律的に全国民に現金給付することで人々の生活を保証する福祉政策もありますが、効果は所得再分配による事後的な公平性の担保に留まります。

そこで私は、社会的投資国家が個人の能力形成に責任を持って投資し、人々の競争条件、すなわち事前の公平性を担保することが重要だと考えています。金銭の支給ではなく、教育訓練の機会を提供し、非物質化した経済構造の下で必要となる能力を身に着けられるよう基盤整備することなどが挙げられます。すべての人が何らかの形で社会に貢献できるような、使命感をもって参画できるような能力形成の仕組みづくりが必要だと思います。

熊野:人的資本については事業家としてもその重要性を感じています。我々アミタグループとしても社員の創造性や価値創出を向上させるという点に、かなりの重点を置いた投資を実行しています。工業化社会の中でこれまで経費(コスト)と考えられてきた人や自然が今後は「投資」の対象となり、逆に今まで投資の対象だった設備や技術などが場合によってはコスト扱いされる時代が到来しているように思います。

諸富氏:戦後何度も社会としての持続性向上を主張する声が上がりましたが、なかなか主流にはならず「まずは経済で豊かになれば社会もついてくる」といった経済中心の論理が長年なされてきました。しかしここ最近、転換や変革という言葉があらゆる場で発信されるようになり、政府や企業、株主、投資家などの価値変容、そして行動変化を求める意見が非常に高まりを見せています。その結果、人的資本投資含め、投資のあり方も変わりつつあるのだと思います。

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熊野:近年、持続可能性への取り組みとして、SDGsやESG経営の流れがありますね。多くの企業や団体が積極的な取り組みを展開している一方、それらの大半は個社ごと、団体ごとに行われ、実践できる内容には限界があります。そこでアミタは産官学民の連携強化やステークホルダーを巻き込んだ共創プラットフォームの構築を通じて、共通の価値観やビジョンのもと、それぞれの課題や強みを持ち寄り、持続可能な社会の実現を目指していきたいと考えています。

アミタが事務局を務める「九州サーキュラー・エコノミーパートナーシップ」は7月から福岡県北九州市で使用済みプラスチック回収の実証実験を開始しています。10社以上の企業や団体が連携し、サーキュラーエコノミーの仕組み化に取り組む日本初の試みです。「九州エリアにおける資源の最適循環」「持続可能な社会の実現に資するビジネス創出」を目的に掲げ一社/一団体では実現が困難な挑戦に共創で取り組んでいるのです。

今、我々は『「持続的で豊かな経済」を支える社会が健全である』という、経済が主役の価値観にとらわれ、数多くの社会課題を引き起こしています。早急に『「持続的で豊かな社会」を支える経済が健全である』という価値観へと主客を転換し、社会の持続性を高める資本主義を発展させる必要があるのではないでしょうか。

 

対談者

諸富 徹 氏(京都大学大学院 経済学研究科/地球環境学堂 教授)

1968年生まれ、同志社大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了後、横浜国立大学助教授などを経て、2010年3月から京都大学大学院経済学研究科教授。この間に、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、ミシガン大学客員研究員、放送大学客員教授を歴任。2015年4月より、ミシガン大学グロティウス客員研究員、および安倍フェロー(以上、2016年3月まで)を務めた。2017年4月より、京都大学大学院地球環境学堂教授を併任。
『私たちはなぜ税金をおさめるのか‐租税の経済思想史』(新潮選書、2013年)、『人口減少時代の都市』(中公新書、2018年)、『資本主義の新しい形』(岩波書店、2020年)、『グローバル・タックス -国境を超える課税権力』(岩波新書、2020年)など著書多数。

参考図書

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