What is Value?価値とは何か?
~普通じゃないこと、それは可能性だ~

「異彩を、放て。」をミッションに、福祉を起点に新たな文化の創出を目指す福祉実験ユニット・ヘラルボニーと、人々が無駄と判断した"不要物"を「価値」に変え続けてきたアミタ。互いに強い意志を持つ2社が、2022年冬、ついに出会った!これから何が起きるのか?!はたまた何も起きないのか?!

しまうまフレンド二組目は、自らを福祉実験ユニットと称し、ヘラルボニー代表を務める松田崇弥さん、松田文登さんご兄弟。レッツ!しまうまトーク!


魂に響く色彩=アール・ブリュット

末次:今度の対談相手はヘラルボニーさん。阪急うめだ本店でアートコレクション中?どれどれ、敵情視察じゃ。って、ごめんなさい敵じゃないです仲間です。(誰に言い訳してんだ俺はww

眼鏡の店員1:いらっしゃいませ。ヘラルボニーは初めてですか?

末次:あ、こんにちは。代表の松田ご兄弟の本を拝読してまいりました。障害のある人たちのアート作品なんですよね?

眼鏡の店員1:ありがとうございます!私の本、読んでくださったんですね。嬉しいです。

末次:(私の本?あ、この人は松田兄弟の...どっちかだ!どっちだ?!) あの~、もしかして、ヘラルボニーの代表の松田...

眼鏡の店員1:文登です、双子の兄の方の。少し、ご説明させていただきますね。こちらの工藤みどりさんという作家さんのネクタイ。青色が多い作品ですが、ご本人いわく「ピンクと紫」がポイントだそうです。みどりさんはとにかく明るくて、瞬時に場の空気を暖めてしまう不思議な力があるんです。彼女の作品は、その人柄を表したような明るくて美しいものが多いです。

末次:おお!めっちゃオシャレで格好いい!パッション感じる!!これ買います!

文登氏:こっちのネクタイは安斎隆史さんで、絵の具が

末次:パッション!買います!

文登氏:こっちは

末次:パッション!買います!

レジの店員ありがとうございます。お会計、10万5千円になります。

末次:しまった、値段を見ずにパッションしてしまった!いやでも、こんな魂を揺さぶるネクタイ、他では買えないぞ・・・。ええい、買っちゃえ!

眼鏡の店員2:たくさんありがとうございます。ヘラルボニーは初めてですか?

末次:あれ?文登さん?さっきお話しましたよね?あ、服が違う。。。

眼鏡の店員2:ああ、私は双子の弟の崇弥です。

末次:わ!間違えてすみません。(えー似てるー!)
ヘラルボニーさんの商品や作品、見れば見るほど惹き込まれるんですよね。絵に魂がこもっているというか。実は私、今度対談させていただくアミタのパッション末次、、、いえ、社長の末次なんですが、今度もっと詳しくお話を聞かせてください。

商品.jpg

会社のはじまり

末次:というわけで、ヘラルボニーさんの東京の事務所にお邪魔しています。お二人の著書を読ませていただいたんですが、起業のきっかけは、重度の知的障害を伴う自閉症のお兄さんだったんですよね?

文登氏:そうなんです。子どもの時から兄に対する周りの目に違和感を感じていて。双子でいつか『福祉』と呼ばれる領域を変えたい、という思いをぼんやり持つようになりました。

崇弥氏:大学生の時に知ったんですが、どんなにすばらしい仕事や作品であったとしてもそれが「障害のある方が手がけたもの」という枠組みに入ると、正当な報酬は得られず、決められた一定の評価になってしまうんです。例えば、兄が通っていた就労継続支援B型事業所だと、報酬は月額1万6千円ぐらい。驚きましたね。

でも、この作品を見てください。世の中的には欠落の対象とみなされてしまう障害のある方たちが、これほど心を動かすアートを生み出しているんです。この作品に見合う報酬が得られるような仕組みを作って、障害があるからこそ、この作品が描けるんだって社会に示したい。末次さんにお買い上げいただいたネクタイもそうですが、ボランティアで購入していただくのではなく、彼らのアートを一流の職人や想いのある企業と共に、最高品質のプロダクトにして、適正価格で提供したい。
障害のある人の作品を、美しい状態のままちゃんとアウトプットできる、クリエイティブエージェンシーのような会社をつくったら面白いんじゃないのかな、ってスタートしたのが始まりですね。

末次:私も本を読んでびっくりしました。障害のある方の報酬って普通そんなに低いんだって。詳しくは、松田ご兄弟の本「異彩を、放て。」に全部書いてありますね(笑)
あ、後でサインしてもらってもいいですか?

崇弥氏:え?はい!もちろん(笑)

文登氏:ちなみに、個人的な興味なんですが、アミタさんはどんな風に会社が始まったんですか?

末次:今年で創業45年になるんですが、一番長い事業は、産業廃棄物の100%再資源化ですね。なじみのない業界だと思いますが、実は廃棄物の中には、天然資源よりも品位の高くて、代替原料に加工できるものがたくさんあるんです。でも、当時はリサイクルという言葉もまだ一般的ではなくて、どんなにいいものでも「ごみなんか大事な製品の原材料に使えないよ」という心理の壁が高くて、非常に苦労したと聞いています。

文登氏:あー、分かる気がします。

末次:これって、廃棄物だけじゃないんです。耕作放棄地も、荒れた森も、空き家も、地域の厄介者になっている。でも、どれもとても価値のあるものです。「無駄」と思う気持ちが「無駄」を作る。アミタのコーポレートメッセージは「What is Value?(価値とは何か?)」なんですが、この世に無駄なものなんて、何一つないんです。人も自然も、資源もそうだし、全てに意味があって、価値がある。この価値観、ヘラルボニーさんと近くないですか?

文登氏:確かに!すごい共通点を感じます。

社会の価値観を変える

文登氏:アミタさんの「ごみ」の捉え方と、私たちの「障害」の考え方、近いような気がします。一般的には「障害」と聞くとネガティブなイメージがあるじゃないですか。「ごみ」もネガティブな印象ですが、それを新たな価値として提供されてきたんですよね。

末次:そうそう、「廃棄物」のイメージって一般的に、いらない・捨てる・汚い、みたいな。でも「障害」も「廃棄物」もどちらも人間がつくったイメージなので、私達がもう一度、概念からつくりなおせばいいと思うんです。だから、うちでは「廃棄物」ではなく「発生品」と呼ぶんです。

文登氏:へええ。私達が障害を異彩ととらえていることに近いですね。「発生品」かぁ。聞いたことないんですが、アミタさん用語ですか?

末次:アミタでしか使ってないと思います(笑)もう体に馴染みすぎて「廃棄物」とか「ごみ」と聞くと「うっ」てなるんですよ。なんか飲み込めない感じになって。

崇弥氏:近いですね!同じです!私たちも「障害者」という言葉を使わないで、「障害のある方」と言うんです。

末次:あと例えば、うちの工場はリサイクル工場じゃなくて『循環資源製造所』という名前なんです。地下資源に代わる地上資源を創って循環させるという意味で。

文登氏:へええ。これまでもっていた廃棄物処理場のイメージとは全然違いますね。そうか、廃棄物処理ではなく、資源を創るお仕事なんですね。

末次:とはいえ、法律では廃棄物の定義がかなり厳密に定められていて、その中で動くことが決められているんです。私達がいくら「これは資源だ!」といっても、法律に「これは廃棄物ですので廃棄物処理法に従ってください」といわれてしまう。我々がより良い資源化、より良い活用の仕組みをつくろうとしても、法律がそれを邪魔するというケースが多々あるんです。技術が進歩して人の意識も変わっているのに、ずっと前にできた法律がそれに追い付いていないというか。そのあたりも変革していけるようになりたいと思っています。

ヘラルボニーさんたちのお仕事でも、「障害のある方に対しての福祉制度はこれ」とか「福祉における賃金はこれぐらい」みたいな、今の決められた枠組みから外れられると困る、というような法律の弊害や業界慣習的な外圧のようなものはあるんですか?

崇弥氏文登氏:ありますあります!話すと長くなりますけど(笑)

松田崇弥氏(代表取締役社長)

崇弥氏:ちょっと話が変わりますけど、福祉施設って、支援されている「障害者」という枠組みに入った人が、何人施設に入居しているかによって、厚労省が支援する金額が変動する構造になっているんです。 でも自分たちの場合は、逆に作家さんに支援されているという事を可視化していきたいんです。支援構造が逆転している座組をちゃんと社会に提示したい。それが成立するんだっていうことを見せていくには、株式会社という形態でチャレンジするのは非常に分かりやすいと思っています。

文登氏:私としては、親御さんや福祉施設の職員さん、色々な方たちが「ほら、やっぱり彼らの作品すごかったでしょ!」と言える環境を整えたいんです。そうすることで、福祉の領域が拡張するだろうし、目線を変えることにもつながると思うんですよね。契約している全国の福祉施設の皆さんが、仕事にプライドを持てる環境をつくっていきたい。尖ったものをどんどん出すことによって、今までの福祉を越えていく。そういう役割なのかな、と。

崇弥氏:助成金とか補助金とか、そっちを頼ろうと思えば、NPOとかでも成立したと思うんです。でもやっぱりそのモデルではなくて、株式会社で挑戦することにこだわりを持ってやっています。

文登氏:さっきの廃棄物と一緒かもしれないですが、長い目で見た時に、この「障害」という言葉そのものが、今の時代にマッチしていないんじゃないかと思うことがすごく多くて。「障害」という言葉そのものを変える側に回っていきたいなと思うんですよね。だとすると、今の時代ならどんな言葉がふさわしいのか。「障害」という枠組みはある程度は必要だと思います。しかし、そこにヘラルボニーというフィルターが入った時に、「障害」という言葉そのもののイメージがポジティブに変わる。そういう位置づけでありたいと思っています。ヘラルボニーが「障害」という言葉をどう新しい言葉へ変えていくのか、これが本当にやりたいところですね。

末次:すごく素敵です、それ。ぜひ、新しい言葉をつくってください!

それぞれの正義

末次:また話が変わるんですけど、この前役員研修で熊本県の水俣市へ行ったんですよ。代表の熊野が色々と辛かった高校生の時に、ユージン・スミスが撮った水俣病患者さんの写真を見て、「ああ、生きてていいんだ。いや、生きなきゃいけない」という風に思ったのが、社会事業を起こす原点だったんです。

水俣病って、地名である水俣に「病」とつけてしまったことによって、地域内でさえも差別が生まれたり、すぐ隣の町の人が他人事だと外部化してしまったり。「水俣病」という枠組みができたことによって、いろんな人たちの間に対立構造ができ、争いが生まれてしまったんですよね。その争いの残り火は今でも消えていません。過去を引きずっていてはいつまでも「水俣病」が消えないじゃないか!そっとしておいてくれ、という人もいる。一方で、今も大変な思いをしている患者さんやご家族もたくさんいらっしゃるし、この人類の大きな学びを後世に残さないといけない、むしろ水俣病を文化遺産にすべきだ、という支援者さんの声もある。

崇弥氏:いろんな価値観、いろんな正義があるんですね。

末次:おっしゃる通りです。いろんな正義がある。そういうことも含めて、本当の当事者になろう、と思っている人がどれだけいるか。公害の原因企業だけを責めるのも違うと感じました。だって自分がその立場になった時に、同じことをしてないと言えるのか?経営者として、人として、自分を顧みたときに、絶対にしないとは言いきれない気がして。
だから、ヘラルボニーさんがおっしゃる「障害のある世界」もご家族とか近しい人からしたら当たり前の世界なんですけど。それをあらゆる人の当たり前にするっていう世界観というか、暮らしの在り方をつくっていきたいなと思います。 アミタは「発展すればするほど人と人、人と自然が豊かになる事業」を標榜していますが、それをどう当たり前の暮らしの中に取り込んでいくか。日々考えます。

崇弥氏:そうなんです。僕たちも一緒です。障害のある世界を日常にしたいんです。

絵を描く作家写真

文登氏:ヘラルボニーも、自分達がやっていることは、全力で正しいと思っている訳ではないです。もし自分が福祉施設でアート活動を支援している職員だったら、アート作品としてはちょっと厳しいかもなというものができた時に、これはこれでいいのに優劣つけてほしくなかったな、値段で評価してほしくないな、という見方も当然あると思うんです。

水俣のお話、水俣の歴史を後世に残すことが正しいっていうのも、水俣病という言葉をもう次の世代に知らしたくないというのも、どれも全部正しいというか。自分たちも、やっぱり大多数の人たちは喜ぶけど、一部の人はそう思わないかもしれない、というのを常に心の中に思いながら走っているところはありますね。そういう意味では、水俣のお話と通ずる部分がすごくあるなと思って。正義は一つじゃないから。

末次:そうなんですよね、各自の正義と正義がぶつかり合うとき、どうしても傷つく人が出てくる。だから私は、それをも包み込む大きい正義というか、大きな価値観を事業で提示したいと願っているんです。経営者としての夢というか。 そして、こうしてお話していてやっぱり御社と共通するなと思うのは、「生きる」ということとか、命ってなんだろうみたいなことに対して企業として正面から向き合っていることですね。

文登氏:それで思い出す話があります。
まだ社名がヘラルボニーになる前、メディアに出始めた時があったんです。その時、当時では珍しく一気にネクタイ5本、計10万円の注文があって、その注文にメッセージが付いていたんです。その方は医師で、妊娠中の奥さんのお腹の子どもが、出生前診断でダウン症だと分かったという内容でした。

---「障害者」という存在は不幸で、家族も本人も苦しむもの。だから子どもを堕ろそうと思っていたけど、皆さんの活動を見て、障害のある方も笑うし、楽しいこともあるし、すてきな経験もあると知りました。子どもを産んで育てようと思います。背中を押してくれてありがとうございます。---

ああ、僕らの思いはきちんと届いている、誰かの人生を変えたんだって。生まれてくる子とその家族が、関わる人すべてが幸せになる社会。それを僕らの手でつくるんだ、僕らの存在意義はこれだ、って思いましたね。忘れられないです。

末次:一人の人間の命を救う、多くの方の人生を、価値観を変えていく事業。素晴らしいです。

文登氏:この前末次さんとお会いした阪急うめだのイベントにも、障害のある方の親御さんをはじめ、いろんな方がたくさんご来場くださって。すごく居心地が良かったとおっしゃっていただいて。皆さん本当にフラットに作家さんや、障害のある方と一緒に笑っていて。今までの百貨店には無かった景色を少しだけ作れたのかな、と思いました。

末次:あのイベントに行ったうちの社員でも、同じことを言っていましたね。作家さんがライブペイントをしているのを見ていたらしいんです。そしたら、すごい筆圧でガシガシ描いていたのに急にピタッと動きが止まって。下を向いちゃってどうしたんだろうと思っていたら、休憩?居眠り?をしていて可愛かったと言っていました。なんとも言えない優しい空気が流れていて、不思議とすごく居心地が良かったと。

絵を描く作家写真

意志を持つ会社

末次:もう一つ聞きたかったのが、お二人にとって今の課題というか、乗り越えないといけない壁みたいなものは何ですか。

文登氏:ブランド化の部分かなーと思ってますね。ブランド化というのは、ヘラルボニーというブランドをどう守るか。

松田文登氏(代表取締役副社長)

今までライセンス事業で色々な企業さんと一緒にプロダクトを販売させていただきました。だけど、届け方のアウトプットであったり、伝え方、全ての細かいところ一つ一つが、ヘラルボニーのイメージとちょっと違う届け方になった時に、ヘラルボニーをそこで初めて知ったユーザーからすると、それがヘラルボニーのスタンダードだと認識される。

もちろん事業として収入は入って来ますが、私達側の届けたいアウトプットと少し違う届け方になってしまうと、それはブランドの強化にはならない。そうなると、流行り廃りになってしまう可能性があると思っています。事業を前進させるだけじゃなく、企業のアイデンティティとか、従業員の働き方の部分とか、そういうところまで踏み込んで入っていけるコラボをもっとやっていかないとな、というのはすごく思います。

末次:ヘラルボニーの組織が大きくなっていく中で、そのブランドやポリシーをどう棄損せずにやっていくか、ですね。思いや思想は崩したくないし、みんながヘラルボニー化するというか、そういう風になっていけばいいなと思ったんですけど、今は尖らして拡張させる、というフェーズなわけですよね。

崇弥氏:そうですね。今はそういうフェーズです。将来的にはもっと障害のある方々の生活や就労に関する事業もどんどんやっていきたいと考えています。

文登氏:福祉の現場の方々や、大学生の方と喋っていると、働きたい福祉の会社がなかなかないという話が多くて。私達の会社が働きたい人の窓口になって、給与も一般の福祉の会社より高いという状態、そういう場所になりたいというのはありますね。

末次:採用の時って、お二人は全員見るんですか?

崇弥氏:見ます!双子で、この人は違うなってどちらかが言ったら、採用しないルールになっています。

末次:喧嘩になりませんか?(笑)

文登氏:喧嘩しますね(笑)
絶対いいとおもう!いや違う!とか(笑)
でも二人が納得するということは重要だと思ってやっています。
アミタさんでは、採用をどんな形でしているんですか?

末次:うちも正社員は全員見てますね。
企業文化性がすごく大事だなと思っているんです。同じミッションのために働けるかどうかが重要で、ミッションのためには柔軟に物事を考えられたり、新しいことを始めるのに躊躇がなかったり、失敗に対する耐性があったり。

文登氏:最終面接で必ずする質問とかはありますか?

末次:挑戦や失敗に対してどう向き合うのか、ということはけっこう聞きますね。あとは、どれだけ人間とか命みたいなことに対してちゃんと向き合えているか。
色々なものがデジタル化して、ある意味無味無臭な世界じゃないですか。だからこそより人間臭い人というか人間味のある人の方が、人を惹きつけたり、新しいアイデアを出したりできるんじゃないかなと。

崇弥氏:人間味というところでは私達もけっこう似てますね。
最終面談に来る時には、もう4回ぐらいは面談が行われていて。だから、僕らの時にはスキルセットはほぼ聞かないんです。逆に小学校時代どんな子どもだったとか、5人仲が良い友達を上げるとしたらどんな友達なのかとか。人間として、同じクラスにいたら仲良かったかな、とかすごく考えたりしますね。

松田兄弟

文登氏:あと、逆に目をキラキラさせて「ヘラルボニーの大ファンです!」って言われるほうが厳しい(笑)そういう方が入ると合わないかもしれないな、と思っちゃいますね。
アミタさんは、こういう組織、こういう形がよかったというのはありますか?

末次:失敗を繰り返しながら今に至るというか(笑)組織を代謝させるために、一旦崩したり捨てたりすることが大事だと思っています。時代に合わなくなったものや過去の成功体験は、思い切って崩して変化させてみる。
変化は乱れを生みますが、懸命に再構築する過程で時代に合わせた代謝ができて、自立的に自分の意志でチャレンジする社員が増えると思ってます。そういう人がミッションで結ばれてつながることで、いろんな困難に対応できるようにしたい。意思ある個々人が連携することでエコシステム的というか、生態系に倣った相補性の高い組織になればなと。そういう意図もあって、近々、分社化を予定しています。効率的で近代的だけど硬直化したものって、実はもろいから、そうならないようには常に気をつけています。

崇弥氏:エコシステム的か。面白いです。うちもいつか分社化とかしてみたいな。福祉事業とは別の業態で。

文登氏:ヘラルボニーは人によって働き方も結構違うんですよね。
接客とかだと店頭に立つのでシフト制だし、企業相手の人たちはフレックス制だし。働き方がそもそも違うので、もっと企業が拡大していくと、絶対そこに歪みが顕著に出てくるだろうなっていうのはあります。タイミングを見極めながら対応していきたいですね。

末次

末次:アミタは今、週40時間じゃなくって週32時間就労、実質週休3日相当を目指しています。

崇弥氏:週休3日相当!?

文登氏:いつから始まったんですか?その週32時間就労。

末次:今年、2022年です。今年はトライアルで、来年本格的に制度化予定なんです。

文登氏:トライアルの成果はどうですか?良いなという手ごたえありますか?

末次:まだ混乱期です(笑)

文登氏:混乱期、まさにいま代謝しているところですね(笑)それで強くなる(笑)

末次:いまだって残業しながら仕事をしているのに、週32時間となると、「そんなの無理ですよ!何を考えているんですか!」という気持ちになる。でも、そこで思考を止めずに、実現できるとすれば何を変える必要があるのかを皆と考えたい。改めて価値づくりのプロセスや自分の仕事の本質について考えてほしいし、そうすることで仕事そのものがダイナミックで豊かなものになると思っています。

文登氏:確かに。そのために考えるし、時間短縮しながら同じ成果をどう上げていくか、 時間の使い方を棚卸できるってことですよね。それはすごいな。

崇弥氏:強制的に強くなる。

末次:イノベーションって、制約があってこそでしょ。限られた条件をどういう風に打ち破っていくかを考えるときに、知恵や創意工夫が生まれると思っています。

文登氏:ほんとそうですよね。
挑戦できる環境を整えたら、あとは個々人のスタッフを信頼するんですよね?君たちならできるって。だからこそ32時間就労もチャレンジできる。企業によってはそんなことしちゃったら崩壊するところもあるだろうに、アミタさんはそれをやり切るのがすごいです。

「ヘラルボニー」という言葉が辞書に載る日

末次:最後に未来へのメッセージと想いをお聞きしたいです。

文登氏:ヘラルボニーという言葉は、元々兄が子どもの時に、自由帳に何度も何度も書いていた言葉なんです。検索しても出てこない、意味のない言葉でした。

崇弥氏:でも、私達の歩みによって、意味も価値もなかった「ヘラルボニー」に、価値が生まれるんです。将来は、「ヘラルボニー」という言葉が、会社名ではない形でも認識されてほしいなとも思っています。

私達双子はスイミングスクールに通ったけれど、兄は通えなかったんです。私達は野球も習っていたけれど、兄は習えなかった。だから、ヘラルボニースイミングスクールって書いてあったら、うちの兄も通えるスイミングスクールなんだとか。ヘラルボニーチェア とか、ヘラルボニー紙コップって書いてあったら、アートが入っているとかではなく、誰でも座りやすい椅子なんだとか、手が動かなくても口で持てるコップなのかもしれないとか。

ヘラルボニーという言葉が、誰でも参加できるんだ、ということが伝わる言葉になったら。『ヘラルボニー』が、辞書に載るくらいの言葉になれたらすごく嬉しいなと思いますね。

末次:将来国語辞典に載っているかもしれませんよ。
『ヘラルボニー』とは、岩手に本社を置く会社です、が一つ目で

崇弥氏:2つ目は、誰しもが参加できる意味の総称とか。

文登氏:将来的には、ヘラルボニータウンのような「まち」を作りたいという想いがあって。今はハレの場をつくるのが一つの形としてあるんです。でも兄は、別にハレの場が好きなわけではないし、話しかけられるのも好きなわけでもない。人それぞれの場所があると思うんですよ。

障害のある方たちは、今まで選択できるという立場にすらいなかったんです。だから障害のある方に、ちゃんと理解が示されている"ヘラルボニータウン"をつくりたいんです。まちづくりという文脈で、障害のある方の親御さんや、いろんな方が移住してきて、そこ自体がある種のセーフティーネットになったり。その人達がどこが住みやすいのか、どういう場所で生きたいのかという選択肢を増やせる、そういう会社でありたいなと思っています。幸せが形成されるまちづくりは、一つのテーマとしてすごく興味があります。

末次:まちづくりといえば、アミタではMEGURU STATION®という互助共助コミュニティ型の資源回収ステーションを色々な地域で展開しているんです。
住民が家庭ごみを持ってきて資源として分別回収する場所なんですが、リユース市やお子さんの遊び場、住民の方の団らんの場所なんかが併設されていて、集まる人たちの関係性が自然と増幅していくコミュニティ空間になっています。どんな立場のどんな人でも、絶対にお家のごみは出しますからね。地域の方々に共通するアクセスポイントが、MEGURU STATION®というわけです。今5か所なんですけど、2030年までに5万か所つくるのを目標にしています。

MEGURU STATION®写真

崇弥氏:ご、5万か所!?5万か所ですか!マジですか??

末次:本気と書いてマジです。
MEGURU STATION®には、資源が集まってリサイクルできるんですが、それ以上に、人が集まることによってつながりが生まれて心身ともに健康になる、それが経済的なことにも繋がる。日々のごみ捨てという日常行為の中に価値観や周囲との関係性を変えていく仕組みがあるんです。行動変容というキーワードは、ヘラルボニーさんにもありますよね。

文登氏:そうですね。「障害」という言葉が日常の中に溶け込んでいる世界をつくりたいですね。

末次:例えば、地域の障害のある作家さんが近所のMEGURU STATION®に資源を持ってきて、そこで作品作りのイベントをしたりとか、面白そうじゃないですか?資源回収のBOXが場所ごとにヘラルボニーのアートで彩られたり、障害のある人や高齢者の方でも使いやすいBOXの開発を地域の方と一緒にしたり。アミタとヘラルボニーさんで関係性のインフラを一緒につくる、みたいな。

文登氏:いいですね!やっぱり、作家さんが自分の暮らす地域で活躍するのが一番求められていると感じています。例えばうちの母は、自分の息子が日経に出るより地元の新聞に出る方が喜ぶわけですよ。要は、地域の作家さんは地域で活躍して、仮に駅舎を彩ったり、アミタさんのMEGURU STATION®の部分外装をやるとか。そうすることで周囲の目線も変わるし、本人や家族の地域での生き方も変わってくる。一人でまちを歩いていたとしても、手を差し伸べてくれる人が増える、そんな社会を作りたいです。

やっぱり兄がどう幸せに生きていくか、というのが本質的にあるんです。ヘラルボニーは重度の知的障害のある方々のインフラ的な存在になりたい。障害のある方々の「親なきあと問題」も解決していきたいです。

末次:本当にお二人の話を聞いていて思いますけど、福祉事業を会社でやるということ、それは金融資本主義に対する挑戦だと思うんですよ。同時にヘラルボニーという価値観を、思想をどれだけ広げていけるかというのも大事だと思います。会社の形とか、意味とか、在り方みたいなことが、ある意味これまでベーシックにこうあるべきだ、と言われていたものは、もはや崩れかけていると思うんです。これまで通りではいかない、やれない。これだけ社会情勢とか資源の問題とか不安定だと、新しい会社の在り方、従業員を幸せにして顧客を幸せにする、新しい会社の形みたいなところが必要で、そこに対する挑戦だなと思いますね。

崇弥氏:アミタさんの挑戦、私達も混ぜていただきたいですね。地域の作家さんと組んで。

末次:是非!「めぐるヘラルボニーステーション」もしくは「MEGURU STATION® featuringヘラルボニー」とか作りたいですね(笑)

末次と松田兄弟写真

対談者 | 松田文登氏(株式会社ヘラルボニー代表取締役副社長)

1991年岩手県生まれ。東北学院大学卒。株式会社タカヤで被災地の再建に従事後、双子の弟・崇弥氏とヘラルボニーを設立、営業統括。2019年に世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。令和3年に日本オープンイノベーション大賞(内閣府)「環境大臣賞」、令和4年に日本スタートアップ大賞(経済産業省)「審査員会特別賞」などを受賞。著書に『異彩を、放て。―「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える―』(新潮社、2022年)がある。

対談者 | 松田崇弥氏(株式会社ヘラルボニー代表取締役社長)

1991年岩手県生まれ。東北芸術工科大学卒。オレンジ・アンド・パートナーズのプランナーを経て、双子の兄・文登氏とヘラルボニーを設立、クリエイティブ統括。2019年に世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。令和3年に日本オープンイノベーション大賞(内閣府)「環境大臣賞」、令和4年に日本スタートアップ大賞(経済産業省)「審査員会特別賞」などを受賞。著書に『異彩を、放て。―「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える―』(新潮社、2022年)がある。

『異彩を、放て。―「ヘラルボニー」が福祉×アートで世界を変える―』